|
●『かがり火』は無名に近い媒体ではあるけれども、一応は全国媒体だから、北海道から沖縄まで全国を取材で歩き回っている。本誌は、地域づくりに取り組んでいる“変”差値人間を紹介するのが目的だから、グルメ情報には力を入れているわけではない。
地方の文化や歴史には何の関心も示さずに、ただうまいものを紹介しているテレビのグルメ番組などは苦々しく思っている。地方は都市住民においしいものを提供するために存在しているのではない。
それに、おいしいものを食べたいなら、その土地に行って現地で食するのがいちばんなのだ。通販などで取り寄せることを否定するわけではないけれど、できることならば産地で食べてほしいと願っている。
●と思っているのだけれど、どうしても人に教えたくなるような農産物や食材に出会うこともある。本当にいいものおいしいものに出会うと、誰にも教えたくないという気持ちと、もっと広く世間に知ってほしいという矛盾した気持ちがせめぎ合って疲れてしまう。
『かがり火』のバックナンバー105号で紹介している「完全無農薬・無肥料の自然農法でリンゴを実らせた男・青森県岩木町の木村秋則さんの壮絶な人生」をお読みいただければ分かるけれど、木村さんのリンゴなどはくたくたに疲れてしまったいい例だ。
●さて、今回ご紹介するのはリンゴではなく、加計呂麻島の「さんご塩」。加計呂麻島というのは奄美大島の離島で、奄美本島の古仁屋からフェリーで渡る。この島は、「男はつらいよ」の最後の作品となった48作目「紅の花」のロケ地になった。加計呂麻島はきれいな海で囲まれているが、満男(吉岡秀隆)が泉(後藤久美子)に愛を告白するシーンが撮影された徳浜はことのほか美しい。この珊瑚礁で囲まれた徳浜で“さんご塩”を製造しているのが榊藤光さんである。
●今や天然塩は選ぶのに苦労するほどたくさんある。
「天然塩は多過ぎて、しかも塩の味というのはみんな似たようなものだから、買うときに迷ってしまう」と榊さんに言ったら、「違う! 塩は製造している場所と製法によって、味はそれぞれ微妙に違います。うちの“さんご塩”を舐めてごらんなさい。ほんのりと甘い味がしますから」と言われた。
それで人差し指の先でちょっと舐めてみると、確かに甘いような気がした。いくつもの天然塩を比較して舐めたわけではないけれど、暗示に掛けられてしまったかのように、榊さんの塩は甘いと信じるようになってしまった。おそらく塩そのものよりも、徳浜の美しさと朴訥な榊さんに惚れてしまったからだろう。
●以来、わが家では冷やしトマトのときは“さんご塩”、サラダのときも、焼き肉のときも“さんご塩”、白菜を漬けるときももちろん“さんご塩”ということになってしまった。
それでは大量に“さんご塩”を購入しているかというとそうでもない。塩というものは大抵の料理にはほんの少々あれば足りる。だから一袋200gを買うとしばらく間に合ってしまうのである。榊さんには申し訳ないがそういうわけで、私はお得意さんというほどではない。
■ お問い合わせ/加計呂麻島自然海塩工房
〒894-2141 鹿児島県大島郡瀬戸内町徳浜1400
TEL0997-76-0523 FAX 0997-73-2038
|