住民と役場の一体感は日本一である
福島県矢祭町で開催された「第6回 小さくても輝く自治体フォーラム」(1月14〜15日)に参加した。参加者は42都道府県から、これまで最多の968人。会場の複合文化施設「ユーパル矢祭」は、参加者のほかに60人の役場職員と300人のボランティアの町民とで膨れ上がり、その昔、石原裕次郎と小林旭の二本立てを上映した日活の映画館もかくやと思わせるほどの熱気に包まれた。
矢祭町はテレビや新聞に登場する回数も多いので、「矢祭町で開催するのなら一度は行ってみたい」という人もいただろうし、根本良一町長を生で見てみたいという人もいたかもしれない。今や、何の変哲もない東北の小さな町が、自立を目指す他の町の人々にとっての聖地となっていた。
矢祭町は職員の自宅を出張役場と位置付けたり、職員OBによる第二役場構想など次々と新機軸を打ち出してきたが、何といっても最大の実績は、住民との揺るぎない連帯感を醸成したことにあるだろう。
今回のフォーラムでは1000人近い来町者を世話をするのに、役場職員だけではとても手が足りない。町民の積極的な協力がなければ、スムーズな運営はできなかっただろう。夜の交流会で供された地元の山菜やこんにゃくなどの食材を使ったおいしい手作りの料理(シシ鍋は特にうまかった)をいただきながら、ボランティアの方々の準備がいかばかり大変であったかを想像したのであった。
住民が積極的に喜びをもって参加したか、頼まれたので嫌々ながら協力したのかは、裏方さんたちの顔を見ればすぐ分かる。みんな晴れやかで高揚していた。このフォーラムに協力できたことを誇らしく思っていたのだろう。
数年前、ある町の地域づくり大会に参加したときのことだが、会場にいた地元の人に話し掛けたら、「私は動員されて出てきたのです。本当ならば休みたかった」というような返事でがっかりしたことがあった。
今回もう一つ、心に残ったのは、塙町、棚倉町、そして茨城県大子町との連携プレーだった。宿泊も矢祭町では収容し切れないから、上記の3町に分宿となった。
本誌を含め参加者を東北新幹線新白河駅から会場まで運んでくれたのは、塙町の「湯遊ランド」のバスだったが、ガイド役として塙町の役場職員が同乗していた。主催者である矢祭町に敬意を表して、初めに矢祭町の概況と産業や物産を紹介し、その後で、控えめに塙町も頑張っていますという態度は好もしいものだった。
合併問題が浮上した当初、この地域でも不協和音が生じたようだが、今となっては矢祭町の選択が正しいものであったことを近隣町村も率直に認めている。隣り合う町や村がわだかまりを捨てて、謙虚にフォーラムに協力しているのはいい光景だった。
矢祭町が合併をしないと宣言した後で、総務省の担当者が矢祭町を説得に訪れたり、周辺の町を回って「矢祭町が合併をしないのは地域エゴイズムである」と非難したことがあったが、今となっては誠に恥ずかしい軽挙妄動であったと言わなければならない。
元気な子どもを増やすことが最大の課題
さて、いちばん重要なのは、矢祭町は合併うんぬんのレベルをとうに超えて、次なる重要なテーマにしっかり取り組んでいることである。
自治体研究社から発刊された『元気な子どもの声が聞こえる町をつくる』には、次のような根本町長の一文がある。
「合併しないということは、矢祭町に人が住んでいくということです。合併することによって、人が住みにくくなるということは言うまでもないのですが、合併しないがためにさらに人口が減って人が住めなくなったとすれば、『合併しない宣言』の意味がどこにあったかということになってしまいます。自立をするための一番の課題は、人口を増やすことです。
そこで、自然減の中でも人口は維持したいし、さらに増加に転じたいと願うところですが、実際は自然減が年に一○○名、それに対して増加が四○名、差し引き六○名の人口減が生じています。矢祭町の出生率は一・九四、それをさまざまな施策を講じることによって、三くらいに高めたいのですが、当面、プラスマイナス0にすることが最大級の事業だと考えています。それを実現させた先に、それから反転して増加に転じることを目指したいのですが、そのため一七年度は三人目の赤ちゃん誕生に一○○万円を祝い金として出しています。さらに本年度の一二月定例議会で議決していただき、四人目に一五○万円、五人目に二○○万円を出しますが、これは一八(二○○六)年一月一日からの即実施を目指しています」
出生に対しての支援だけではない。子どもは産みっぱなしというわけにはいかないから、矢祭町では保育所や幼稚園の利用料や小学校・中学校の給食費など、子育てにかかる各種料金をいっそう低額なものにしようとしている。さらには、雇用の確保にも積極的に取り組んでいる。
「企業誘致はもっと進めないといけません。人口を増やすということは、働く場を確保してよそからの若い夫婦が喜んで移って来れるようにしたいと思います。子育てにかかる料金も安い、三人目を産んだらお金をもらえる、分譲住宅団地もある、その上で勤めるところもあるという条件ですね。せっかく大事に育てた子どもたちが、一八歳で大学に行ったまま帰ってこないのではさみしいと思うのです」(同書)
注目すべきは矢祭町の財政調整基金の残高である。矢祭町の地方交付税は、2000年度の21億9200万円から、2004年度には18億8400万円へと約3億円減少したが、町の財政調整基金は同期間に6億5000万円から11億円に増加させているのである。さらに矢祭町では、誘致企業の税収増加によって、財政力指数も0.2台から、20年先には少なくとも0.5から0.7台に高まるという見通しを立てている。
「合併しないと財政が行き詰まる」というのは、合併になだれ込んだ市町村の最大の理由だが、矢祭町は短期間で具体的な数値で反証してみせた。
中央省庁は矢祭町を見習うべきだ
平成18年3月末までで、市町村数は1820になる。国が当初目指した1000までには遠く及ばない。国は、ここいらあたりが妥当なところと判断するのか、メンツにかけても強力に合併を推し進めようとするのか。合併新法では知事に勧告権も持たせたし、最近は、首長の経営責任を問う破綻法も検討して、地方を威嚇しようという動きまである。
一体、地方の借金は単純に膨れたものではない。テレビでは、地方の赤字の施設を取り上げて、地方自治体はいかにも知恵も能力もないように揶揄しているが、その実態は、ほとんどは国からの補助事業、あるいは誤った政策誘導によって造らされたものである。
例えは悪いが、無駄な公共事業に投資して赤字団体に転落しようとしている自治体は実行犯かもしれないが、国は教唆をした共同正犯なのである。その国が、おのれの罪を棚上げにして地方だけを悪者扱いにするのは、一体どんな了見か分からない。
地方をこれ以上絞り上げる前に、中央省庁はメンツを捨てて矢祭町のまねをしたらどうだろう。矢祭町の職員が自らトイレ掃除をしているように、官僚たちも各省のトイレを掃除するのである。経費の節約になるだけでなく、精神的にも緊迫感が生まれる。こういう話になると、そういうのはポピュリズムだと強弁するが、単なる人気取りと思われてもいいから、へ理屈を並べるのはやめて、とにかく一度実践してみることをおすすめしたいのである。
この先の矢祭町の運命は分からない。
しかし、一つ確実に言えることは、国の財政危機、地方交付税の減額という非常に厳しい状況にあって、歴史に残る一つの完成された町をつくったということである。10年後、20年後、あるいは100年後、国と地方の関係がどう変わろうとも、矢祭町の物語は繰り返し語られるに違いない。
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